私は手をかざし、再び詠唱する。
「水よ、我に仇なす者を貫く弾とならん。【ウォーターショット】!」
バシッ!
今度は水の魔法を放った。
先程の魔法よりも威力は劣るものの、それでも魔獣を仕留めるのには十分なものだった。
魔獣は地面に倒れ伏す。
しばらく痙攣した後、動かなくなった。
どうやら死んだらしい。
「ふぅ……これでよしっと。さすがに強かったけど、何とか勝てましたよ」
「イザベラ、お前……」
「殿下、大丈夫ですか?怪我などされてはいませんか?」
「あ、ああ。お前のおかげで助かった。だが、今のは一体なんなのだ?どうして、あんな魔法が使える?」
「あれはただの土魔法と水魔法ですよ。攻撃魔法としては、大したことありません」
「そ、そうなのか?しかし、俺が知る限り、普通の魔法士ではあれほどの魔法は使えないはずだぞ?」
あれ?
そうだっけ?
『ドララ』では、もっと強い魔法があったような……。
いや、あれは主人公アリシア視点のゲームだからか。
一般的な魔法使いの感覚では、今の私ぐらいの魔法でも十分過ぎる威力なのだ。
うっかりしていた。
「畑仕事の副産物ですね。土魔法と水魔法だけは得意なのです」
とりあえずこう誤魔化しておこう。
実際には他の属性も使えるけどね。
あんまり目立ってしまったら、エドワード殿下に目を付けられる。
バッドエンドを回避するために、できるだけ彼には関わりたくない。
「……ふむ。よし、決めたぞ!」
エドワード殿下が何かを決意したように言う。
「何をでしょうか?」
「お前を俺の婚約者にしてやろう!感謝しろよ、イザベラ!」
「えぇ!?」
何を言い出すんだ、この王子様は。
私は思わず叫びそうになるのを必死に抑える。
落ち着け私。
冷静になるのよ。
ここで取り乱してはダメだ。
まずは状況を整理しよう。
私はエドワード殿下に尋ねる。
「それはつまり、私と婚約したいということですか?」
「そういうことだ。喜べ、俺の妻になれば贅沢な暮らしができるぞ」
「申し訳ございません。お断りします」
私はそう断言する。
「なにぃ?」
「そもそも、なぜ急にそのような話になったのでしょう?」
「それはお前が『面白い女』だからだ」
「はい?」
「俺はお前のような変わった奴を見たことがない。お前なら退屈しないで済みそうだ」
なんということだ。
『面白い女』ポジションは、『ドララ』における主人公アリシアのポジションなのに。
そこからエドワード殿下とアリシアは去÷小?說→網を育んでいき、それに嫉妬したイザベラがアリシアに嫌がらせを行っていくのだ。
そのポジションが私に置き換わった……?
「私を玩具にしようとなさっているのですね」
「別に取って食おうというわけではない。ただ一緒にいるだけでいいのだ。俺と一緒にいれば、それだけで箔が付くだろう?」
「私は箔になんて興味ありません。この話は……」
エドワード殿下からの申し出を改めて断ろうとした私だったが、お父様がそれを遮った。
「待ちなさい、イザベラ。エドワード殿下のお気持ちを無下にすることは許さん」
「ですが……」
「エドワード殿下、娘は確かに非凡な才を持っております。社交術やマナーも、これから覚えていけば良いことでしょう。しかし、まだまだ子供。婚約相手として相応しいかどうか、じっくりと時間をかけて判断するべきではありませんか?」
「ほう、貴殿は俺の考えを否定すると?」
「否定するつもりはありません。ですが、もう少し時間をいただけないでしょうか。今すぐ返事をすることはご勘弁を。それに、陛下への相談も必要でしょう?」
「……わかった。今日のところは引き下がらせてもらうことにしよう。俺が王都に帰還して父上に相談した後、正式に答えを聞かせてもらうぞ」
エドワード殿下がそう言う。
とりあえずこの場は乗り切った。
その後は一度アディントン侯爵家の屋敷に戻って支度を整え、彼は馬車に乗って王都へと戻って行ったのだった。